
旅するたたき場 楢葉町の旅物語『まだ決まってない、』
原案 宮澤賢治『銀河鉄道の夜』
〈七、北十字とプリオシン海岸〉

森健太郎
旅するたたき場が見る旅
地方の文化行政の現場ではこれまでも、地域の文化活動や文化振興を補完する目的で、他の地域で制作された美術の巡回展を受け入れたり、音楽家や演劇の巡回公演を誘致したりすることがありました。しかし一方で、地方を「稼ぐ場所」として利己的に利用するプロモーターも少なくありませんでした。東京という都市を「地方都市を搾取して肥大化した近代日本の象徴」と揶揄する声があるように、アートの分野においても、都市部と地方との関係についてたびたび議論されてきました。近年では都市部にはない取り組みの一つとして「地域アート」などに注目が集まりがちですが、残念ながらそれらに関わる人の中には、地域を単なる作品の一要素として消費してしまったり、都市部で企画した企画を乱暴に地域に持ち込んだり、あるいは低コストの展示会場として扱ってしまう例も少なくありません。こうした動きは一部で「地方を搾取している」と批判を受けることもあります。
さて、筆者自身も地方で活動する身として正直に言うならば、東京や海外から来る作家の中にそのような姿勢を見ることがあり、時に心を痛めることもあります。過去には、被災後の福島を訪れた海外のカメラマンが地元の民家を無断で撮影し、それを世界中に発信した事例がニュースになったり、SNS発信者がカメラを片手に被災地の建物へ堂々と不法侵入した事例もありました。これらの自己承認欲求のために地域を利用するような行為と、そのような人々を目の当たりにすると、なんとも言えない気持ちになります。ここまで露骨に不愉快な事例はそれほど多いわけではありませんが、それでも現地で生活している者の視点から見ると、住民の感情や生活を顧みない姿勢や、地域の要素を過剰に演出し、あたかも特別な価値を発見したかのように売り込むような傲慢な風潮が、一部のアート業界に広まってきているように感じます。
今回楢葉町に来た「旅するたたき場」は、「車一つでどこかの町へ」向かうパフォーマンスプロジェクトです。劇場の枠を超え、車に乗って町へ赴き、現地の誰かと出会い、その経験から即興劇を作り上げます。パフォーマーは地域に足を運び、現地の人々と寝食を共にしたり、学校で子どもたちと遊んだりしながら、さまざまな人々と関わります。彼らを喜んで受け入れてくれる人もいれば、「忙しいから」と呼びかけに応じてもらえないこともあり、そうした旅先での出来事が、即興劇に反映されていきます。彼らのパフォーマンスは「素朴で、温かく、美しい景色が広がっていて、まだ見つかっていない魅力がある」といった旅行会社がPRで謳うようなイメージで地域を消費するものではなく、むしろパフォーマー自身が地域の内部に入り込むことで生み出されていきます。一見して穏やかに見える地域でも、その内実は泥臭い日々の営みが続いていることを、そのまま表現し伝えようとしているようです。生活の中で起こる出来事や経験を演劇に取り込みながらストーリーを組み立てていくその姿勢が、彼らを無自覚な地域の消費から解き放ち、本当の意味での「旅」の経験を彼らにもたらしています。
本番では、普段は劇場として使われていない施設がパフォーマンスの舞台になります。時間になると、どこからともなくパフォーマーが現れ、観客に座布団を配りながら「今日はどこに座って見ますか?」と声をかけます。これまでパフォーマーと関係を築いてきた地域の人々を中心に観客が集まり、車座になってパフォーマンスが始まります。即興劇では、住民から聞いた昔話や地域の歴史、個人の逸話などが、多層的に組み合わさって語られます。会場の窓から見える山についてパフォーマーが話すと、地元の役場職員が即興劇に加わり、マイクを手に取ってこの土地の歴史や古代の人々の生活について話しを始めます。パフォーマーたちがこの地域で築いてきた人間関係や、旅の中で見聞きしたさまざまな情報が、コラージュのように積み重なり、観客の目の前に広がる景色の意味が次第に変化していきます。積み上げてきた経験が即興の中で再構成され、まるで生き物が新陳代謝を繰り返しながら成長していくように、場面が移り変わっていきます。
旅するたたき場のメンバーは、自分たちの活動を「地域の人たちと創り上げる演劇」と表現しました。しかし、それは単なる「住民参加型のプログラム」という意味ではないでしょう。むしろ、旅先での生活を通じてパフォーマー自身が変化し、そこで得たものを関わった人たちに還元しようとする真摯な姿勢こそが、彼らの考える「地域の人たちと創り上げる演劇」の姿なのだと思います。それはきっと、かつて異国の地を旅しながら思想を深めた哲学者や、見識を広げるために旅をした多くの芸術家の経験に近いものであるはずです。
劇評
出演 星善之(旅するたたき場)
出演 山本史織(旅するたたき場)
出演 山田朋佳(旅するたたき場)
出演 中野志保(旅するたたき場)
出演 神保治暉(旅するたたき場)
チラシ写真 堺亮裕(個別志導塾 燈-tomoshibi-)
チラシデザイン 山田ゆり
チラシイラスト 山田朋佳(旅するたたき場)
運営協力 個別志導塾 燈-tomoshibi-
主催 旅するたたき場
後援 楢葉町
スペシャルサンクス
一般社団法人ならはみらい・Katsurao Collective・松館地区のみなさま・ならはこどものあそびば・ほしぷろ・エリア51
本公演は、経済産業省「地域経済政策推進事業費補助金(映像芸術文化支援事業)」ハマカルアートプロジェクトの採択事業として運営しています。



